JAHIS標準003-00
JAHIS臨床検査データ交換規約Ver.2.0

概要

 今日、医療は独りのドクターがすべての医療行為や患者情報を掌握した時代から、医師とコメディカルとのチーム医療、病診連携、中央検査室や検査センター、遠隔診断、地域医療、在宅医療へと変貌しつつある。これに対応して、医療にかかわる情報は自己完結型から広域化・共有化する必要がある。このための情報システム基盤は、データベースとネットワークである。その情報が共有化されるためには、ある約束ごとで、客観的に記述され、記録伝達されなければならない。この約束ごとが、標準・規格と呼ばれるもので、工業界では日本工業規格JISに代表される。近年まで、医療分野では個別のカルテが中心であったため、標準化について具体的検討があまり進まなかった。しかしながら、先に述べたように医療環境が変化し、分業化と連携やインフォームドコンセントが進むにつれ、標準化と客観化の重要性がより認識されるようになった。また、システムメーカーに於ても、一社ですべての業務システムをカバーすることは困難となってきており、マルチベンダー化が進んでいる。ここでも効率的なシステム開発のため、標準化が必須となっている。このように医療情報の標準化は、患者中心の医療や効率的な医療を進めるにあたって、重要な位置を占めるものである。
 臨床検査の分野では、いち早く標準化の取り組みがおこなわれている。臨床検査そのものの標準化は1985年より日本臨床検査標準協議会JCCLS(Japan Committee for Clinical Laboratory Standards)が設立され、検査方法や精度管理を中心に信頼される検査データが流通することを目的として活動している。
 検査項目コードについては、日本臨床病理学会で1962年より長年にわたり臨床検査項目分類コードを発表してきたが、1990年にコンピュータで使用する事を前提とした大改訂を行い、第8回改訂として発表した。さらに第8回改訂の問題点や新規項目などを追加し、結果識別コードも組み込んだ第9回改訂を1994年に発表し、1997年の第10回改訂にいたっている。
 臨床検査データのシステム間でのやり取りについては、1993年医療情報システム開発センターMEDIS-DC臨床検査データ交換標準化協議会より暫定規約「臨床検査データ交換規約(暫定版)」が発表された。さらに保健医療福祉情報システム工業会JAHISではその利用ガイドを作成してきた。しかしながら、それは当時の汎用機やオフコンで稼動している臨床検査システムですぐ対応可能な規約とし、国際情勢や医療情報システム動向を踏まえた規約については以後の検討とした。その意味で暫定版であった。
 保健医療福祉情報システム工業会臨床検査システム委員会では、医療情報の標準化動向を見極めながら、臨床検査のみならず保健医療情報システム全体のデータ交換体系に留意し、院内オーダーリングや病医院-臨床検査センター間をはじめ、さまざまな医療関連施設間相互に適用できる、次世代かつワールドワイドに通用する臨床検査データ交換規約の検討を進めた。
 作業は、まず病院・医院ほか保健医療関連施設(臨床検査センターを含む)間で発生する、将来を見越した、検査依託業務に関する情報要素を抽出し、つぎに情報要素をASTM E-1238及びHL7と対比し原案検討の基本資料とした。それをもとに各情報フィールドの意味付けや定義を明確にするとともにアプリケーション層の検討を進めた。また、これまでの検討結果をHL7 Ver2.3に適用し、HL7 Ver2.3に準拠する形で日本の実情を考慮した仕様となるよう検討した。HL7仕様で不都合な部分は浜松医大木村教授のご尽力により米国HL7に仕様変更と了承を取付け、Ver2.3仕様で「JAHIS 臨床検査データ交換規約 Ver. 1.0」としてまとめるにいたった。これにより、暫定版では定義されなかった検体数やアレルギーの情報などを反映することが可能となり、またセット検査や負荷試験の個々の検査を詳細にオーダーできるようになった。
 この規約を運用するにあたり、相互に情報を認識するために同じ内容を持った検査項目マスターをはじめさまざまなマスターファイルやテーブルが不可欠である。これらの情報も標準化されていてはじめてメッセージ交換として意味のあるものとなる。そのため必要となる各種マスターファイル情報を設定更新する場合に使用するメッセージを検討し,マスターファイル通知メッセージの章を追加し、あわせてHL7 V2.3.1との整合性もとり、Ver.2.0として発表するものである。
 したがって本規約はHL7 Ver2.3.1から、第4章オーダー、第7章検査報告、第8章マスターファイルを中心に、第2章コントロールや第3章患者管理より、臨床検査に関係する部分をとりまとめ、国内における運用を鑑み、関連する情報を追加したものである。関係団体や諸先生方の一方ならぬご協力に感謝いたします。
 
目 次

1. 序論
 1.1 はじめに
 1.2 HL7概要
  1.2.1 HL7とは
  1.2.2 なぜ標準化なのか
  1.2.3 HL7の歴史
  1.2.4 HL7の組織
  1.2.5 HL7プロトコル概要
  1.2.6 他の標準化組織との関連
  1.2.7 日本HL7協会他国内の標準化組織との関連
 1.3 主な用語
2. HL7メッセージ
 2.1 HL7メッセージ構成
 2.2 Message Delimiters メッセージ区切り文字
 2.3 Data types データ型
3. 臨床検査依頼・検査結果 メッセージ
 3.1 臨床検査依頼メッセージ
 3.2 臨床検査結果メッセージ
 3.3 検査項目コード
  3.3.1 日本臨床病理学会臨床検査項目分類コード
  3.3.2 臨床検査項目分類コードの利用
  3.3.3 検査項目コードと検査材料の関連
  3.3.4 検査項目コード事例集
 3.4 検査材料・部位コード
  3.4.1 日本臨床病理学会 臨床検査項目分類コード 材料コード  Ver.10.1
 3.5 定性結果・不等号等の表現方法
 3.6 数量/タイミング定義 Quantity/Timing (TQ) Definition
  3.6.1 数量/タイミング成分
  3.6.2 透析前後の検査依頼方法
  3.6.3 数量/タイミングの使用例
 3.7 検査結果コメントの扱い
  3.7.1 OBXに伴う叙述的報告について
  3.7.2 叙述的報告のために検査IDを定義する接尾辞の解説
  3.7.3 検査結果コメントの例
 3.8 臨床検査依頼・検査結果セグメント詳細
  3.8.1 MSH – message header segment メッセージ・ヘッダ・セグメント
  3.8.2 NTE – notes and comments segment 注釈コメントセグメント
  3.8.3 PID – patient identification segment 患者識別セグメント
  3.8.4 PV1 – patient visit segment 来院情報セグメント
  3.8.5 AL1 – patient allergy information segment 患者アレルギー情報
  3.8.6. ORC – common order segment 共通オーダーセグメント
  3.8.7 OBR – observation request segment 検査要求セグメント
  3.8.8 OBX – observation/result segment 検査結果セグメント
4. マスターファイル Master Files
 4.1  目的
 4.2  トリガーイベント
 4.3  メッセージ
  4.3.1  MFN – master files notification マスターファイル通知メッセージ
 4.4  マスターファイル通知メッセージ共通セグメント
  4.4.1  MFI – Master file identification segment マスターファイル識別セグメント
  4.4.2  MFE – master file entry segment マスターファイルエントリーセグメント
 4.5  一般マスターファイル
  4.5.1  MFN 一般マスターファイル通知メッセージ
  4.5.2  対象とするコード表
  4.5.3  ZGN 一般マスターファイルセグメント
  4.5.4  一般マスターファイル更新のMFNメッセージ例
 4.6  検査項目マスターファイル
  4.6.1  検査項目マスターファイル全般
  4.6.2  MFN 検査項目マスターファイル通知メッセージ
  4.6.3  OM1 – general segment 検査項目一般セグメント
  4.6.4  OM2 – numeric observation segment 数値結果項目セグメント
  4.6.5  OM3 – categorical test/observation segment カテゴリー値結果項目セグメント
  4.6.6  OM4 – observations that require specimens segment 検体検査セグメント
  4.6.7  OM5 – observation batteries (sets) segment セット検査セグメント
  4.6.8  OM6 – 計算値結果項目セグメント
  4.6.9  検査項目マスターファイルメッセージ例
 4.7 参考  スタッフ・開業者マスターファイル
  4.7.1 MFN  スタッフ・開業者マスターファイルメッセージ
  4.7.2 STF  スタッフ識別セグメント
  4.7.3 PRA  開業者詳細セグメント
  4.7.4 例:医師マスターファイル通知メッセージ
 4.8 参考  ロケーションマスターファイル
  4.8.1 Patient location master file message (MFN)
  4.8.2 LOC – location identification segment
  4.8.3 LCH – location characteristic segment
  4.8.4 LRL – location relationship segment
  4.8.5 LDP – location department segment
  4.8.6 LCC – location charge code segment
  4.8.7 例:MFN ロケーションマスターファイルメッセージ
付録 A. 臨床検査依頼・検査結果 ORM・ORUメッセージの例
付録 B. 医療情報交換規約運用指針 MERIT-9での扱い
付録 C. 臨床検査データ交換規約 暫定版とJAHIS版との対応
改訂履歴
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