JAHIS技術文書13-105
JAHIS IHE-ITI を用いた医療情報連携基盤実装ガイドレセコン編Ver.1.0
 

ま え が き

 現在、我が国では150 以上もの地域医療連携ネットワークが稼働している。その目的とするところは様々である。ある地域では特定の疾病を発症した患者、たとえば脳卒中患者を対象に、その地域の医療機関が連携して急性期診療から社会復帰までの診療に当たる。糖尿病のような慢性疾患の患者を対象に、地域の医療機関が提供する機能に応じて役割分担を行い、地域全体としてより効率的な医療の提供を行い、医療資源の効果的な利用を目指す地域もある。また別の地域では、診療所では困難な検査を地域中核病院に依頼し、結果をオンラインで参照、閲覧することで医療機器という資源の効率的な利用を目指す。
 効果的で効率的な地域医療連携を実現するには医療情報を医療機関間で交換あるいは共用できなくてはならない。そして、このためには単にネットワークで医療機関相互が接続されているだけでなく、情報が交換/共用される情報基盤が整備されていることが前提となる。現在地域医療連携による診療を提供している地域では、それぞれの地域で異なる情報基盤を利用している。ある地域では中核病院のWeb サービスを連携する診療所で利用したり、また別の地域ではA社の提供する連携基盤を利用したりといったようである。最近では複数のシステムベンダが提供する連携基盤の相互乗り入れも可能となっているが、情報を比較検討するために複数のウィンドウを開かなければならないなどの問題もあるようである。
 地域医療連携のあるべき姿は必ずしも明確にはなっていない。一つの理想的な形として地域であたかも一つの病院が形作られているように、多くの医療機関が有機的に連携して診療を提供出来る姿が考えられる。このような地域では、患者がどの医療機関で診療を受けようと、地域で患者にとって最適な診療提供を行うことが可能となるだろう。すなわち、地域で一患者一カルテのような状況で情報利用が実現され、診療が提供されている状態である。さらには、疾病によっては、患者は一地域に留まらないということもあり、場合によっては全国の医療機関でその患者の診療記録が閲覧できることが望まれる。
 これが可能であるためには、診療情報が標準化され、情報の交換/共用のための基盤も標準的な情報技術を基本に構築されていて、患者も一意的に識別可能であって、一定のセキュリティレベルが保証されている必要がある。欧米の各国ではこのような診療情報の利用が可能な基盤が構築されつつある。残念ながら我が国ではそのような事業が進められていないが、情報の交換/共用のための基盤は、欧米の各国と同様にIHE(Integrating the Healthcare Enterprise)の情報基盤であるITI(Information Technology Infrastructure)の一部の統合プロファイルを利用して構築することが可能である。また、標準化された診療情報として電子レセプトをベースとしたレセプトコンピュータを利用することで、患者が訪れた医療機関でその患者が過去にどのような診療を受けたかをある程度は知ることができる。

 「医療機関間で医療情報を交換するための規格等策定に関する請負業務」で、JAHIS は日本IHE協会と連携してIHE ITI テクニカルフレームワークの内、地域医療連携ネットワーク構築に必要な統合プロファイルであるPIX ( Patient Identifier Cross-Referencing)、PDQ(atientDemographic Query)、XDS(Cross-Enterprise Document Sharing)、ATNA(Audit Trail and NodeAuthentication)などを標準化する作業を行い、我が国で適用可能な規格とする作業を行った。
 さらに、この規格を適用し地域医療連携ネットワークを構築するとき、何に留意すべきか、規格をどのように解釈すべきかを明確にするために、「IHE ITI を用いた医療情報連携基盤実装ガイド」を作成した。
 実装ガイド本編では、医療機関間で診療情報を交換するためのフレームワークとして、IHE ITIの診療文書共有のフレームワークを採用した。このフレームワークは、医療施設(本書では、電子カルテシステム/オーダエントリシステムから地域医療連携用データを出力する医療機関を示す)等の電子カルテシステムから作成された診療文書(SS-MIX 標準化ストレージ内のメッセージ等)を対象としたものであり、標準化された形式の診療情報を施設間で共有することが可能である。
 ここで、日本の医療情報連携の実態に目を向けると、中核病院から電子カルテシステムを導入していない診療所や薬局等の小規模医療施設(本書では、レセプトコンピュータから地域医療連携用データを出力する医療機関や薬局を示す)にある診療情報こそ参照したいという需要がある。
 日本においては、小規模医療施設が多数を占めており、地域医療連携を実現するためには、それらの小規模医療施設も含めて、広く遍く多くの施設が参加できる形にすることが望ましい。しかしながら、小規模医療施設では、診療情報を病院と同じ標準化された形式で電子的に作成するための仕組みを導入することは効果に見合わない多額の費用負担を強いることになり、実現は困難な状況にある。一方で、小規模医療施設には、高い普及率でレセプトコンピュータが導入され、電子レセプトでの診療報酬請求が行われている。
 以上の背景を踏まえて、本書「IHE-ITI を用いた医療情報連携基盤実装ガイド レセコン編」では、小規模医療施設のレセプトコンピュータから地域医療連携用データを出力するためのガイドを作成した。本書の仕様により、レセプトコンピュータに登録された診療情報を活用することで、実装ガイド本編で採用される、医療施設を対象としたIHE ITI の診療情報共有のフレームワークを、規模医療施設に対しても適用可能となる。本書が小規模医療機関の地域医療連携への参画の促進につながる事を期待したい。

2014年3月
一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会
戦略企画部 事業企画推進室


目 次

1. はじめに … 1
 1.1. 策定方針 … 1
 1.2. 適用範囲 … 2
 1.3. 各章の概要 … 2
 1.4. 用語・略語の定義 … 4
2. 前提条件 … 6
 2.1. 地域医療連携における連携情報の分類 … 6
  2.1.1. 地域医療連携で必要な連携情報(医科) … 6
  2.1.2. 地域医療連携で有用な連携情報(医科)… 7
  2.1.3. 地域医療連携で必要な連携情報(調剤)… 7
  2.1.4. 地域医療連携で有用な連携情報(調剤) … 8
 2.2. 電子レセプトデータについて … 8
 2.3. レセプトコンピュータ … 8
 2.4. レセプトコンピュータの対応要件 … 9
 2.5. コンピュータやネットワーク動作環境 … 9
 2.6. 他に準拠すべきガイドライン … 9
 2.7. その他の前提条件 … 9
3. 地域医療連携用診療情報記録条件仕様 … 10
 3.1. 地域医療連携における連携対象項目(医科)… 10
 3.2. 地域医療連携における連携対象項目の実現方法(医科)… 14
 3.3. 地域医療連携用診療情報記録条件仕様(医科)… 27
  3.3.1. 記録形式 … 27
  3.3.2. ファイル構成 … 27
  3.3.3. 情報表記仕様 … 27
  3.3.4. 地域医療連携用診療情報記録条件仕様に対応できない場合の措置 … 37
 3.4. 地域医療連携における連携対象項目(調剤) … 38
 3.5. 地域医療連携における連携対象項目の実現方法(調剤)… 40
 3.6. 地域医療連携用診療情報記録条件仕様(調剤)… 44
  3.6.1. 記録形式 … 44
  3.6.2. ファイル構成 … 44
  3.6.3. 情報表記仕様 … 44
  3.6.4. 地域医療連携用診療情報記録条件仕様に対応できない場合の措置 … 52
4. 連携用データの出力と送信 … 53
  4.1.1. 連携用データの出力 … 53
  4.1.2. 出力対象患者、出力対象レコードの選択 … 54
  4.1.3. 連携用データの送信 … 54
  4.1.4. データの追加・更新・削除の考え方について … 54
5. 連携用データの受信・変換・格納 … 55
 5.1. 受信処理 … 55
 5.2. 変換処理 … 55
  5.2.1. 連携用データ(医科)の変換 … 56
  5.2.2. 連携用データ(調剤)の変換 … 133
  5.2.3. 変換エラーの扱い … 164
 5.3. 格納処理 … 165
  5.3.1. レセリポジトリの構造 … 165
  5.3.2. ファイル命名規則 … 166
  5.3.3. 格納処理における留意点 … 166
  5.3.4. トランザクションストレージ記録仕様 … 167
6. 参考文献 … 168

付録―1.コード表 … 169
付録―2.レセリポジトリ変換処理のサンプル … 170
付録―3.作成者名簿 … 184

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