JAHIS技術文書13-104
JAHIS IHE-ITIを用いた医療情報連携基盤実装ガイド 本編Ver.1.0

注意:この標準類は旧版です。最新版はこちらをご覧ください。

ま え が き

 現在、我が国では150 以上もの地域医療連携ネットワークが稼働している。その目的とするところは様々である。ある地域では特定の疾病を発症した患者、たとえば脳卒中患者を対象に、その地域の医療機関が連携して急性期診療から社会復帰までの診療に当たる。糖尿病のような慢性疾患の患者を対象に、地域の医療機関が提供する機能に応じて役割分担を行い、地域全体としてより効率的な医療の提供を行い、医療資源の効果的な利用を目指す地域もある。また別の地域では、診療所では困難な検査を地域中核病院に依頼し、結果をオンラインで参照、閲覧することで医療機器という資源の効率的な利用を目指している。
 効果的で効率的な地域医療連携を実現するには医療情報を医療機関間で交換あるいは共用できる必要がある。このためには単にネットワークで医療機関相互が接続されているだけでなく、診療情報などのデータが交換/共用される情報連携基盤が整備されていることが前提となる。現在地域医療連携による診療を提供している地域では、それぞれの地域で異なる情報連携基盤を構築し利用している。最近では複数のシステムベンダが提供する情報連携基盤の相互乗り入れも可能となっているが、情報を比較検討するために複数のウィンドウを開かなければならないなどの問題もあるようである。
 地域医療連携のあるべき姿は必ずしも明確にはなっていない。一つの理想的な形として地域であたかも一つの病院が形作られているように、多くの医療機関が有機的に連携して診療を提供出来る姿ということが考えられる。このような地域では、患者がどの医療機関で診療を受けようと、地域で患者にとって最適な診療提供を行うことが可能となるだろう。すなわち、地域で一患者一カルテのような状況で情報利用が実現され、診療が提供されている状態である。さらには、疾病によっては、患者は一地域に留まらないということもあり、場合によっては全国の医療機関でその患者の診療記録が閲覧できることが望まれる。
 このような医療情報連携を可能とするためには、診療情報が標準化されていること、情報の交換/共用のための情報連携基盤が標準的な情報通信技術を基本に構築されていること、患者が一意的に識別可能であること、一定のセキュリティレベルが保証されていることなどを備えている必要がある。欧米の各国では、これらの要件を備えた情報連携基盤を、IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)の情報通信基盤であるITI(Information Technology Infrastructure)分野を中心とした関連の統合プロファイル(Integration Profile)を利用して、構築しつつある。IHE では、普遍的な臨床上のユースケースをモデル化した統合プロファイルを設定し、医療情報システムを構築する際の標準規格の使用方法などを明確化した実装ガイドともいえるテクニカルフレームワーク文書を発行している。その中では、地域医療連携のための情報連携基盤を構築するために使用できる統合プロファイルが多数規定されている。
 厚生労働省による「医療機関間で医療情報を交換するための規格等策定に関する請負業務」において、JAHIS は日本IHE 協会と連携して上記の統合プロファイルを標準化する作業を行い、我が国で情報連携基盤の構築に適用可能な規格として「地域医療連携における情報連携基盤技術仕様」を策定した。さらに、この規格を適用し地域医療連携のためのネットワークシステムである情報連携基盤を構築する際に、何に留意すべきか、規格をどのように解釈すべきかを明確にするために、「JAHIS 技術文書 IHE ITI を用いた医療情報連携基盤実装ガイド」を作成した。
 本実装ガイドは、本編とレセコン編の2分冊からなる。本編では、地域医療連携のための情報連携基盤を構築するためにIHE ITI 統合プロファイルをどのように利用するかを記述している。

 既に我が国の地域医療連携基盤の構築においては厚生労働省電子的診療情報交換推進事業などで策定されたSS-MIX およびその後継であるSS-MIX2 仕様を採用しているケースが多いため、既に構築されているSS-MIX2 標準化ストレージとIHE XDS.b との整合性を意識してガイドを策定した。また、レセコン編は、厚生労働省による「医療分野における小規模機関にかかるインターフェース規格策定及び検証に関する請負業務」で検討された医科および調剤のレセプトコンピュータが持つ情報を標準化された診療情報として出力するインターフェース規格を、情報連携基盤において利用するガイドとして策定した。診療の概要情報ではあるが、広く普及し、しかも標準化された電子レセプトデータを中心に、地域医療連携に利用できるようにするために遵守すべき事柄をまとめている。レセプト情報が利用できるようになることで、多くの地域医療連携では中核病院から診療所へと一方通行だった情報利用が、診療所から中核病院へも提供出来るようになり、より効果的な地域医療連携の実現に向けた連携基盤の構築が可能となる。
 本実装ガイドでは、診療所や薬局などの小規模医療施設も対象とした地域医療連携のための医療情報連携基盤を標準化された情報や通信形式で構築するための最小限の要件をとりまとめた。
 IHE では、実際の医療現場で要望の多い放射線画像情報など各種の医療情報の取扱いや地域医療連携ネットワーク間での情報交換など、地域医療連携に関する多数の統合プロファイルが規定されている。今後、本実装ガイドの内容の改訂の検討とともに、これらの拡張についても継続して検討を行っていく所存である。

2014年2月
一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会
戦略企画部 事業企画推進室


目  次

1.    はじめに... 1
 1.1.     目的... 1
 1.2.     適用範囲... 2
 1.3.     用語・略語の定義... 4
 1.4.     本書の読み方... 15
  1.4.1.     本書の構成とIHE統合プロファイルの関係... 15
  1.4.2.     HL7 V3メッセージインタラクション... 16
  1.4.3.     ebRIM/ebRS. 17
  1.4.4.     XML定義表... 18
2.    PIX/PDQ/XDS共通概要... 20
 2.1.     前提条件... 20
 2.2.     情報閲覧に求められる機能... 20
 2.3.     患者選択における参照モード... 21
 2.4.     実装が期待されるトランザクションと想定される利用シーン... 22
  2.4.1.     患者基本属性の取得... 23
  2.4.2.     患者基本属性の登録、更新、削除... 24
  2.4.3.     ドキュメントリポジトリの登録... 30
  2.4.4.     ドキュメントリポジトリの差分更新... 31
  2.4.5.     文書の検索と表示... 32
  2.4.6.     施設登録機能... 32
  2.4.7.     利用者登録機能... 32
  2.4.8.     ドキュメントレジストリ・リポジトリの削除... 33
3.    セキュリティ要求... 34
 3.1.     監査証跡... 34
  3.1.1.     監査イベント記録 [ITI-20] 35
  3.1.2.     監査イベント記録の伝送... 36
  3.1.3.     監査イベント記録のメッセージフォーマット... 36
 3.2.     時刻同期... 36
 3.3.     ノード認証... 37
 3.4.     アクセス制御... 37
4.    PIX/PDQ.. 38
 4.1.     PIXの概要... 39
 4.2.     トランザクション定義(PIXV3)... 40
  4.2.1.     患者IDフィード(HL7 V3版)(Patient Identity Feed)[ITI-44] 40
  4.2.2.     患者ID相互参照問合せ(HL7 V3版)(PIXV3 Query)[ITI-45] 94
  4.2.3.     患者ID相互参照更新通知(HL7 V3版)(ITI-46)... 111
 4.3.     PDQ の概要... 128
 4.4.     トランザクション定義(PDQV3)... 128
  4.4.1.     患者基本情報問合せ( HL7 V3版) [ITI-47] 129
5.    XDS.b. 152
 5.1.     XDS.bの概要... 153
 5.2.     メタデータ定義... 154
  5.2.1.     メタデータ属性の共通仕様... 154
  5.2.2.     ドキュメントエントリ(Document Entry)... 164
  5.2.3.     サブミッションセット(SubmissionSet)... 169
  5.2.4.     HasMember関連... 173
  5.2.5.     文書間関係(Document Relationship)... 175
 5.3.     トランザクション定義... 178
  5.3.1.     ストアドクエリ(Registry Stored Query)[ITI-18] 179
  5.3.2.     文書セットの提供と登録(Provide and Register Document Set-b)[ITI-41] 205
  5.3.3.     文書セットの登録(Register Document Set-b)[ITI-42] 224
  5.3.4.     文書セットの読出し(Retrieve Document Set)[ITI-43] 241
  5.3.5.     患者IDフィード(Patient Identity Feed HL7 V3)[ITI-44] 254
6.    共通データ仕様... 255
 6.1.     識別子... 255
  6.1.1.     識別子(人が解釈することを意図しない識別子)... 255
  6.1.2.     識別子(患者ID(PIXマネージャ))... 255
  6.1.3.     識別子(患者ID(その他のアクタ))... 256
 6.2.     氏名(漢字・カナ/ミドルネーム有)... 257
 6.3.     性別... 258
 6.4.     生年月日... 258
 6.5.     単純名称... 259
 6.6.     住所(非構造化データ)... 259
 6.7.     電話番号... 260
7.    コード定義... 261
8.    オブジェクト識別子(OID)定義... 275
 8.1.     オブジェクト識別子の取得について... 275
9.    参考文献... 276
 9.1.     引用規格... 276
 9.2.     参考URL. 276
 9.3.     参考資料... 278

付録―1.作成者名簿    280

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