JAHIS技術文書10-101

JAHIS医療情報システムの患者安全に関するリスクマネジメントガイドライン(解説編)
注意:この標準類は旧版です。最新版はこちらをご覧ください。

全文ダウンロード


ま え が き

 1999年末の米国IOMのレポート「To Err is Human」発表以来、医療過誤への関心が高まり、医療過誤とITシステムの関連等の議論も活発になった。また、国内においても2000年にオーダシステムにおける処方オーダミスによるアクシデントが起こり、これに対応してJAHISにおいても処方オーダミス対策プロジェクトを立ち上げ、業界共通のガイドを纏めてきた。しかし、運用上の要因が主因と考えられるが、同一薬品でのアクシデントが2008年11月に再度起こり、厚生労働省医政局医療安全推進室の指導のもと、病院薬剤師会・日本医師会他と連携してJAHIS会員への周知およびユーザからの問合せに対する対応のお願いを行った。
 一方、医療機器および医療機器ソフトウェアの範疇に含まれないものを対象とした患者安全マネジメントの最初の国際標準規格案が、英国NHSから2006年3月のISO/TC215の会議において提案され、その後3年間に渡って、ISO/TC215の場で規格化の是非について議論が繰り返されてきた。最終的には医療機器および医療機器ソフトウェアに関する国際標準規格を策定しているIEC/SC62Aとの合同での策定へと移行し、現在IEC/TR80001-2として策定中である。
 この議論の過程において、医療現場での使用に際してリスクのあるものは、医療機器および医療機器ソフトウェアとして扱うべきであるという考え方が主流になり、CENおよびCENELECの合同WGで、医療情報システムも含めて規制対象の検討が行われている。
 また、欧州では、2010年3月からの改正MDDによる医療機器ソフトウェア単独での規制実施を行うことになっており、一方、米国FDAでは医療機器の定義に基づいて電子カルテ等の医療情報システムは医療機器ソフトウェアの定義に合致すると見なしているが、現状は裁量によって規制の対象から除外している状況である。
 このような海外状況およびGHTFの勧告に基づいて、日本においても医療機器ソフトウェア規制の議論が活発化しており、従来から医療機器および医療機器ソフトウェアを製造しているメーカの工業会においても厚生労働省への働きかけを行っている。

このような状況を鑑み、日本では現在のところ医療情報システムは薬事法等の規制の対象外であるが、欧州・米国での規制動向が近い将来日本へ波及することに備えるという観点、および安全・安心なシステムの提供・運用を目指すという観点で、医療情報システムの患者安全に関するガイドラインを纏め、本ガイドラインをもとに、JAHISとして患者安全リスクマネジメントの自主規制を行い、安全性を確保する仕組みを実行した上で、将来に対処すべきであると考える。
 以上の観点から、今回は、医療機器および医療機器ソフトウェアの規制に関する国際標準規格(一部はすでにJIS規格化済)の概要を解説し、患者安全確保のための一般的な管理手法の概要を理解して頂く目的で本解説編を策定し、また、医療情報システムのハイリスク業務と考えられる注射オーダ業務等を取上げ、具体的な業務に対応した患者安全ガイドラインを技術文書として並行して策定する。
 本解説編の読者としては、医療機器等に関する国際標準規格や薬事法等の規制に必ずしも精通していない医療情報システムの開発等に従事している人を想定しており、国際標準規格の代表的なものについて、その概要を理解して頂く目的で作成したものである。

 

2010年9月
保健医療福祉情報システム工業会
安全性・品質企画委員会


目 次

まえがき  
1.適用範囲
2.引用規格・引用文献
3.用語の定義
4.記号および略語  
5.ソフトウェアライフサイクルプロセス
  5.1 ソフトウェア開発プロセスと保守プロセス  
  5.2 ソフトウェアリスク分類  
 5.3 ソフトウェア構成管理プロセス
6.ソフトウェアのリスクマネジメントプロセス
  6.1 ソフトウェアリスクマネジメント  
  6.2 ソフトウェア開発プロセスにおけるリスクマネジメント  
  6.3 ソフトウェア保守プロセスにおけるリスクマネジメント  
7.ベリフィケーションとバリデーション(検証と妥当性確認)
  7.1 概要  
  7.2 (医療機器で求められている)ソフトウェアのベリフィケーション(検証) 
  7.3 医療機器ソフトウェアのバリデーション(妥当性確認)  
8.リスクマネジメント報告他
  8.1 JIS T62304 8章 ソフトウェア構成管理プロセス 
  8.2 JIS T62304 9章 ソフトウェア問題解決プロセス 
  8.3 IEC80002-18章 リスクマネジメント報告  
  8.4 IEC80002-19章 製造および市販後製造情報  
  8.5 IEC80002-1ANNEX_E SAFETYCASE 
9.ユーザビリティ
  9.1 ユーザビリティの説明  
  9.2 医療情報システムとして適用する場合  
10.リスク回避手段のトレーサビリティ
  10.1 概要  
  10.2 製造業者が提供する情報とトレーサビリティ  
  10.3 医療機関が確立し運用するトレーサビリティ 
  10.4 補足(関連規格)  
付則A:電子カルテシステムおよびオーダエントリシステムのソフトウェア構成例とリスク評価例  
付則B:薬剤部門管理システムのソフトウェア構成例とリスク評価例 
付則C:IEC62366ユーザビリティ仕様へのインプット例 
付則D:IEC/TR80002-1のANNEX_C 
付則E:IEC80001-1
付録1:作成者名簿

ページトップへ